〜1.ある朝の始まり〜

『行かないで。私の側にいて!!』・・・

うなされるように目が覚めると、カーテンの隙間からネオンの明かりが差し込めていた。
手さぐりでメガネを探し時計を見ると明け方の4時を回っていた。
僕にとっての4時はちょうど良い時間だ。朝食迄には3時間以上あるが、1日の中で唯一独りで寛げる貴重な時間だからである。

今僕は自立訓練施設に所属していて入所して1年が過ぎようとしていた。元々既婚者だったが、鬼嫁に愛想を尽かせ、着の身着のままでこの自立訓練施設に入所した。
入所を手助けしてくれたのもみんな十年来の友人ばかりだ。しかし今まで連絡なんてろくにしてなかったのに、偶然の偶然が重なり上手い具合にここまで漕ぎ着けた。

部屋はかなり狭くクローゼットとベッドを除くと歩く隙間はほとんど無いが、鬼嫁から離れられただけでもかなり有り難い。

スマホを開きワイヤレスイヤホンを耳にはめて若かれし頃の曲から今流行りの曲迄、朝食迄の間、聴きまくる・・・というか僕にとっての自然音だから聴いている自覚はあまり無い。当たり前の音なのだ。例えるならば必要十分条件な音である。一曲目は決まって『saji~星のオーケストラ~』から聴く。今の自分にピッタリな曲だからだ。この曲を聴いて1日のエンジンをかける。

着の身着のままで来たから、ろくに洋服なんて無い。あるものでコーディネートし、髪型も伸び切って一見浮浪者と言ってもいいので上手く束ねちょい悪オヤジらしく着飾る。その後ちょび髭を剃り顔を洗い、身だしなみ完了となる。

『良し!!今日は草取りか!?』

日中は就労支援事業B型と言う、職業訓練施設へ通っている。

着替えや所持品をバッグの中へ入れ、身じたくも完了。

『さて、ゆっくり瞑想にふけようか!?』

この自立訓練施設へ来てこんなにもゆったりとした朝を毎日繰り返す事が出来て幸福感に満ちている。だからこそ過去の二の舞いはごめんだ。前だけを向いて生きていきたい・・・

『イヤ!!生きるんだ!!』

毎日呪文のように唱える言葉がいくつかある。その中の言葉で思春期から呟いている言葉が、

『泣くのも私』
『笑うのも私』
『周りに流されるな』
『私は私らしく生きて行こう』

こうして今日も僕の1日が始まった。